日本政策金融公庫(以下、日本公庫)は、政府が100%出資する政策金融機関であり、中小企業や創業者向けの資金供給を目的とした公的な金融機関です。銀行融資を受けにくい事業者や、新たに事業を始める経営者にとって重要な資金調達手段となっています。しかし、日本公庫が旧政府系機関であることから、一般の民間銀行とは異なる融資の審査基準や制限事項が存在します。本記事では、経営者が日本公庫から融資を受ける際に生じる主な制約事項について解説します。
1. 税金の滞納に厳しい審査基準
日本公庫は政府系の金融機関であるため、納税義務の履行状況を厳しくチェックします。税金の滞納がある場合、融資審査において大きなマイナスポイントとなります。
• 法人税・所得税の滞納
税務署や自治体に税金を滞納していると、融資審査で不利になります。税務署からの督促状が届いている場合は特に注意が必要です。納税証明書(納税の証明や未納の証明)を提出することが求められることがあり、滞納が判明すると融資審査が通らない可能性が高くなります。
• 消費税の未納
消費税の未納は特に厳しく見られます。企業が預かった消費税を納付しないことは、資金繰りの問題があるとみなされるため、日本公庫としてはリスクが高いと判断します。
• 住民税・社会保険料の未納
会社経営者が個人として住民税を滞納していたり、法人として社会保険料(厚生年金や健康保険)を滞納していたりすると、財務管理能力が低いと判断され、融資審査が不利になります。
2. 反社会的勢力との関係に厳格
日本公庫は、公的資金を原資とするため、反社会的勢力との関係に厳しい基準を設けています。申込時には「反社会的勢力ではないこと」を証明する誓約書の提出が求められ、過去に暴力団関係者との取引がある場合や、関連性が疑われる場合は融資が受けられません。
また、暴力団排除条例に基づき、警察などと情報共有が行われることもあるため、経営者自身が問題なくても、取引先や事業パートナーが反社会的勢力と関わりがあると疑われる場合も審査に影響する可能性があります。
3. 創業融資における「自己資金要件」
日本公庫の創業融資では、自己資金の有無が審査に大きく影響します。特に「新創業融資制度」では、原則として事業資金の10分の1以上の自己資金を持っていることが求められます。
• 自己資金の定義が厳格
自己資金は、個人の貯金や長年の蓄えであることが求められます。親族や友人からの借入金を自己資金とみなすことは原則として認められません。また、直前に銀行口座に振り込まれた資金も、自己資金として認められない可能性があります。
• 事業計画の現実性も重視
自己資金の多寡だけでなく、事業計画の実現可能性や市場性も厳しくチェックされます。収益の見込みが甘い場合や、事業の継続性が疑われる場合には、自己資金があっても融資が否決されることがあります。
4. 事業の社会的意義が問われる
民間金融機関と異なり、日本公庫は政策目的に基づいた融資を行うため、社会的に問題のある事業には融資を行いません。
• 風俗関連事業の制限
風営法に基づく事業(キャバクラ、パチンコ、ラブホテル、ナイトクラブなど)は、日本公庫の融資対象外となるケースが多いです。
一部の業種(例えば、バーやスナックなど)は審査次第で融資対象になることもありますが、事業の健全性が厳しくチェックされます。
• 投機性の高い事業
仮想通貨取引やFX取引を主要な事業としている場合、安定性が低いと判断されるため融資が難しくなります。同様に、マルチ商法やネットワークビジネス関連も、融資対象外になる可能性があります。
5. 既存借入の状況に対する厳しいチェック
日本公庫は、申込者の既存借入状況を細かく審査します。
• 他の金融機関からの借入が多すぎるとNG
既に多額の借入がある場合、返済負担が大きいと判断され、融資が否決されることがあります。特に、消費者金融やカードローンからの個人的な借入があると、資金管理能力が疑われます。
• 金融事故(ブラックリスト)の影響
過去にクレジットカードの延滞や、信用情報機関に登録されるような事故がある場合、融資審査に悪影響を及ぼします。個人信用情報(CICやJICCなど)を日本公庫が照会することはありませんが、自己申告書の提出を求められる場合があります。
まとめ
日本政策金融公庫は政府系金融機関であるため、税金の滞納、反社会的勢力との関係、自己資金の要件、事業の健全性、借入状況など、審査において独自の厳格な基準が設けられています。特に、税金や社会保険料の未納があると審査に大きく影響するため、事前に清算しておくことが重要です。また、事業計画の現実性や、社会的に適切な業種であるかも慎重に審査されるため、融資を申し込む際には十分な準備が必要です。
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